歴史
慶応4年(1868年)に創業、150年以上の歴史を誇る松乃鮨は、北陸屈指の老舗寿司屋です。そのルーツを辿ると江戸時代に「江戸三鮨」と謳われた「安宅松が寿司」が原点であります。「安宅松が寿司」は、江戸中で「玉子は金のようで、魚は水晶のようだ」と美しさをたたえられる寿司屋であり、「松ケ鮓一分ぺろりと猫が食い」とも川柳にも読まれている名店でありました。当店の初代は、若き日の頃、「安宅松が寿司」で修業し腕を磨き、その後、能登の地で屋台の寿司屋から始まり現在に至ります。
また、江戸幕府十一代将軍、徳川家斉に献上していたとされる、幻の玉子巻を受け継ぎ、当店では、その玉子巻を「玉宝」と名付け、今日まで受け継いでます。
玉子巻き「玉宝」へのこだわり
江戸幕府十一代将軍、徳川家斉に献上された幻の玉子巻は、初代から数えて六代に継承され、技法と味が受け継がれてきました。その長い歴史において伝統の作り方、手法はそのままに、時代とともに、お米や卵、砂糖、醤油等の高品質化され玉宝そのものが昇華されてきました。
この玉子巻「玉宝」の味わいは、ふっくらした薄焼き玉子を作り、うっすら焦げた面を内側に、カンピョウ、でんぶ、玉子焼き、海苔を芯にしたシャリを包んで優しく巻き上げ、大ぶりの太巻きに仕上げたものであり、酒の香りが利いたまろやかな薄焼き玉子がすべてを包み込むような、豊潤な味わいが楽しめます。
魚へのこだわり
石川県、能登半島のど真ん中に位置する七尾湾は、「天然の生簀」とも呼ばれ豊かな魚介が水揚げされます。当店では、朝どれの七尾魚を中心に、季節ごとに旬を迎える魚を仕入れ、その魚がより美味しくなるよう、ほんの少し手を加え、お客様に提供しております。
また、時代ともにお客様のニーズも変わってきました。例えばカワハギやイワシを例にあげますと、昔は大量に水揚げされ、さほど価値が高くない魚というイメージでしたが、今では、カワハギの肝付きのお刺身は、当店においても1番人気ですし、イワシのお刺身やぬた和え等も非常に喜ばれ、価値が高まった魚といえるでしょう。私自身も七尾湾で水揚げされたカワハギやイワシは非常に旨いと思います。また、数十年前までは、お寿司を食べる観光のお客様もさほど多くはありませんでしたが、近年は、七尾の魚や寿司が旨いという事が伝わり、多くのお客様が足を運んでくれるようになりました。その中で、お客様の層の変化によって、仕入れも大きく変わっていきました。その代表格といえば、ノドクロのお寿司やアワビといった高価な食材です。これからもお客様の求めているニーズを捉え、仕入れや、仕込みにこだわり、寿司の旨さを追求していきます。
シャリへのこだわり
お米は、地元石川県産にこだわり、石川ブランドであるコシヒカリや寿司米として開発された笑みの絆を独自の配合でブレンドして使用しております。また、一番大切なシャリの炊き方にもこだわりが強いです。寿司の職人として50年たちますが、日々工夫を凝らし、今の炊き方に至りました。詳しくは企業秘密ということで外には出せない情報ですが、少しだけお話させていただくと、水の質や量、温度、炊くときに入れる材料、水切り等の時間や米、酢の分量を細かくデーター化し、より美味しさを追求していきました。
酢へのこだわり
寿司屋の中でもっとも重要な調味料が酢であり、当店では、赤酢や米酢、穀物酢の3種類を使い分けております。
寿司屋の代表的な仕事といえるのが酢〆であります。酢〆も代々受け継がれている技のひとつであり、特徴は、塩加減がほんの少し強く、酢はさっとつける程度のため、素材の良さを引き出せるような浅〆となっております。
しゃりに使用する酢にもこだわりがあり、石川県産の米酢と県外から取り寄せた赤酢を独自の配合でブレンドしており、ブレンドする事により、味わいや風味が奥深い仕上げりのしゃりとなっております。
ムラサキ(醤油)へのこだわり
寿司や刺身はそのシンプルな食べ方から醤油は非常に重要です。その塩分濃度や甘み加減によってもお刺身の味わいが大きく変わります。醤油の特徴は、味と香りと濃度です。松乃鮨の特徴は、ほんのり甘みがあり、風味は香り高く、濃度も少しとろっとしたお醤油です。なぜこのようなお醤油が良いのかと言いますと、七尾魚は都会で食べるのと比べると新鮮な魚です。そのため身の質に弾力がありますし、その他の特徴として淡泊な旨みが特徴の魚が多いです。その特徴を最大限にいかすため、製造元にお願いし独自の配合に仕上げた醤油を使用しております。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
私は16歳からこの道に入り、今年で50年の節目を迎えました。
このページでは、当店の歴史やこだわりについてのお話を書かせていただきました。
これもひとえにご贔屓してくださったお客様や卸業者、生産者の皆様のお力添えの賜物であります。心より感謝を申し上げます。これからも、能登のお米や素材、朝どれの七尾魚等、旬の素材を吟味し、代々受け継がれた、技や味を守り、一貫入魂の気持ちでお寿司を握らせて頂きます。能登の最高の食材を扱える事に心より感謝しながら、お客様に「お腹と心を満たす」この理念を掲げ日々精進してまいります。
五代目 南 隆一